2012/03/16

「中国化する日本」:日本の未来は、グローバル中華民主主義or再江戸化?



本を読んで得られるもので、一番嬉しいのが、事象に「新しい視点」を提供してくれることです。切れ味の鋭い「補助線」を一本引くことで、世界の見え方が変わってくる。それが僕にとっての知的好奇心です。


先日読んだ「中国化する日本」は、まさしくそんな切れ味の鋭い補助線を提供してくる一冊でした。



どうやら、切れ味が鋭い補助線ほど、賛否両論が巻き起こるようです。その様子こそが、著者の提示している日本で1000年も続いている対立の構図の縮図のリアルタイム版のように見えます。(アマゾンの書評コメントなど)




中国化とは?
宋朝時代に、身分制や世襲制を撤廃された結果、移動の自由・営業の自由・職業選択の自由が確立されたもの


1:権威と権力の一致・・・皇帝が名目上の権威者に留まらず、政治的実験をも掌握する

2:政治と道徳の一体化・・・儒教思想=普遍主義的なイデオロギーによって正統化したため、政治的な「正しさ」と道徳的な「正しさ」が同一視される

3:地位の一貫性の上昇・・・皇帝が行う科挙=「徳の高さ」と一体化した「能力」を問う試験で官僚が選抜されるため、「政治的に偉い人は、当然頭もよく、さらに人間的にも立派」(逆もまた真なり)という建前が成立する

4:市場ベースの秩序の流動化・・・貨幣の農村普及などの政策により、自給自足的な農村共同体をモデルとした秩序が解体に向かい、むしろ商工業者が地縁に関係なく利益を求めて動き回る、ノマド的な世界が出現する

5:人間関係のネットワーク化・・・科挙合格者を探す上でも、商売上有利な情報を得るためにも便利なので、宗族(父系血縁)に代表される「広く浅い」個人的なコネクションが優先される


裏返すと日本文化論

1:権威と権力の分離・・・権威者=天皇と、政治上の権力保有者は別の人物。政党や企業でも、名目上のトップと、運営の実権は組織内の複数の有力者に分掌されている

2:政治と道徳の弁別・・・政治とは複数の有力者のあいだでの利益分配だと見なされ、利害調整のコーディネートが為政者の主たる任務となる。当時体制の外部にまで訴えかけるような高邁な政治理念や、抽象的なイデオロギーので出番はあまりない

3:地位の一貫性の低下・・・たとえ「能力」があるからといってそれ以外の資産(権力や富)が得られるとは限らず、むしろそのような欲求を表明することは忌避される

4:農村モデルの秩序の静態化・・・前近代には世襲の農業世帯が支える「地域社会」の結束力がきわめて高く、今日に至っても、規制緩和や自由競争による社会の流動化を「地方の疲弊」として批判する声が絶えない

5:人間関係のコミュニティ化・・・ある時点で同じ「イエ」に所属していることが、他地域に残してきた実家や親戚への帰属意識より優先され、同様にある会社の「社員」であるという意識が、他社における同業者(エンジニア、デザイナー、セールスマン・・・)とのつながりよりも優越する




著者は、源平合戦も、中国化を推し進める平家と、反中国化を志向すう源氏の戦いと整理しています。結果、反中国化勢力が勝ち、日本文化として定着してきたという流れです。


明治維新で、一度中国化に振れたものの、明治政府の自由競争政策への不満と、江戸時代の不自由だが安定した社会への回帰願望の自由民権運動によって、再び反中国化(=江戸化)に戻ってしまう。小泉内閣で一度中国化に向かうものの、またまた反中国化へ戻っている。しかし、今後は・・・?


以下の当時の論点も、非常に現代と似ていますし、中国化に対して争った源平とも同じ対立軸です。


A:もっともっと自由化を徹底し、今は負け組の人でも戦い続ければいつかは自力で勝ち組に這い上がれるような、より競争的で流動的な社会を作る


VS


B:進展する一方の自由化をむりやり引き戻してでも、一人勝ち状態になっている一部の人間がやりたい放題の状況を抑制し、多数の弱者の人々もそれなりに尊重されているという実感を持てるような社会を作る


世界のスタンダード(中国化)に対して、反中国化としてぶつかることが1000年も続いているのが日本の状況だという切り口は、本当に面白いです。


正規非正規雇用の話と、江戸時代の農村の長男と次男以下の人たちの置かれている状況。反中国化でやってきた日本では、制度的に老人を守り、多くの若者が厳しい環境(機会の平等が得られない)状況に置かれてきたことも書かれています。


この切り口で考えると、ノマド論争も「中国化」を巡る戦いのように見えます。


・中国化を志向するノマド層
自分の能力を活かすためには、「イエ」から飛び出て活躍したい。厳しい環境であっても「イエ」に依存せず、自分の能力で戦っていきたい。正規雇用じゃなくても、能力で這い上がれる社会にしたい


・「江戸時代化」を維持したい層
お前達は仕事ができるからだろ!結局高学歴じゃないか!仕事ができない人はどうするんだ?「イエ」を大切にして、格差が少なく、そこそこでも食っていける社会がいいよ


日本が進む道として、こうやってちゃんと論点を明確にしないと、全体としては前に進みません。(個人は自分次第です)。「中国化」というワーディングに違和感を感じる方も多いかもしれませんが、ぜひ一度読んでみて欲しい本です。


関連エントリー:ノマド論に対して、会社員とフリーが対立することの不毛さ



RSSリーダーで購読する


にほんブログ村 経営ブログ 広告・マーケティングへ
にほんブログ村