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2012/11/29

【ポートランドで考えた】その2:小さな都市でも、地政学的強みを活かした生態系が絶妙!

前回のエントリーに続いて、本題の考察編です。現地に一週間滞在して、現地に住んでいる人たちに会って、自分でどう感じたのか?


ポートランドという都市の地政学的強み

・都市と自然のハイブリッド環境

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ポートランドの人口は58万人。アメリカでもナンバー1の環境に優しい都市(2008年Popular science誌)。コロンビア川やコロンビア渓谷がすぐ近く。Mount Hoodが都心部からも見える環境。都市でありながら、ちょっと車を走らせれば自然溢れる地域。

ちょうど滞在した時期が雨の多い時期で、日によってはかなり激しい雨。ある日は雹まで降ってきました。そのため、街中にいる人でもほぼ全員がアウトドアブランドの防水・撥水フーディを着て、フードをかぶり、かつ傘を差していた人も多い状況でした。(僕が雨男だったという噂もありますがw)

もちろん、冬の時期以外はカラッと晴れて気持ちが良く、自転車にやさしい街であるポートランドも見て欲しいと現地の人々から何度も言われています・・・。

上の写真は、現地でお世話になっている友人夫妻に、車でコロンビア渓谷にあるマルトノマ滝まで連れて行ってもらったときのものです。ダウンタウンから1時間かからずに、完全な自然の中に没入できる環境です。

東北や北欧とも共通する、自然への畏怖と、雨や雪の時期に家の中で物を創るという共通の文脈を感じました。

・アウトドアブランド/スポーツブランドの本拠地


上記のような自然環境にあることが地政学的にポートランドの魅力となっていると思います。自然を愛する人たち、イケイケに経済謳歌を楽しみたい人たちではなく地に足のついた生活を志向しながらも、都市での人との関わり、カルチャーを楽しみたいという人たちが結果的に住んでいるようです。

ポートランドに本拠地を置いているアウトドアブランドや、スポーツブランドが多いのもうなずけます。今回会社にお邪魔したNIKEをはじめ、コロンビア・スポーツウェア、ペンドルトン。ダナーも工場はポートランドのようです。自分たちが、自社製品を使って楽しめる環境に暮らしながら、一カスタマーとして改善したり改良・発見が強みになっているからこそ、ポートランドに存在しているのでしょう。

あと、IT系ではインテルが大きな雇用を産み出しています。

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※写真は、ポートランド郊外ビーバートン市にあるNIKI CAMPUS。ここから世界に向けた仕事をしている

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※写真はNIKE CAMPUS内にあるNIKE湖。釣り人は本物じゃなくて銅像。キャンパス内に各種スポーツ施設が整っていて、家族も利用できる

こういった規模の大きな地元企業があることで、小さな都市であるにもかかわらず世界を向いた仕事をしている層が一定数いることも生態系としてすごく重要です。


DIYピープル・クリエイティブな仕事が集まる


・クリエイティブ業に従事しながら生活的余裕があるボボズ層


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NIKE本社などがあることも影響していると思いますが、クリエイティブ・エージェントのワイデン&ケネディやデザインコンサルタント会社のzibaなどの広義のクリエイターを雇用する土壌があります。もちろんNIKEなどの地元企業にもデザイナーなどの雇用があります。

最近はあまり聞かなくなりましたが「ボボズ(Bourgeois Bohemians ブルジョワ・ボヘミアンズの略称)」が一定数いることがこの街の生態系を面白くさせているように感じました。ブルジョワ=ヤッピーでスーツを着た会社員で金儲けに情熱を傾ける。ボヘミアン=カウンタカルチャーをベースにしたヒッピーで、お金から離れた自活・自由を重視する。この2者をあわせた概念として出てきたのが「ボボズ」でした。
ボボズは社会的にも経済的にも成功を収め、高い収入と豊かな暮らしを確保しているにも関わらず、服装はビシッと決まったスーツではなく、TシャツにGパンなどのラフな格好。食べる料理も豪華なフランス料理ではなく、どこかの山奥で取れた新鮮な水と、酵母から気を使って作られたパン。聞くのはクラシックではなく、ロックやパンク、エレクトロニカなど。芸術家肌なボヘミアンの性格と、資本家的なブルジョワジーの双方の特徴を、ボボズは持っているのだ。(『アメリカ新上流階級ボボズ』より) 

もちろん、90年代に言われはじめたボボズとちょっと違っているかもしれませんが、クリエイティブな仕事に就いて、自分の大切にするものの軸がカンターカルチャーに近い、自然の物を大切にしたり、いいものにはお金を払うという価値観を重視しているという点では、同じです。

そして、彼らがいるからこそ、飲食業やアートマーケット、ファーマーズマーケットなどのインディペンデントで小資本でいいものを提供している人たちを経済的に支えることできるのでしょう。


・個人で小資本で仕事を始められる隙間がたくさん残されている


 大企業が雇用を提供し、大企業が必要とするクリエイティブな仕事を提供する会社があり、彼らが「いいものには価値を見いだして、お金を払う」という土壌があるからこそ、個人が小資本ではじめたビジネスでやっていける人たちがいるのです。

 ポートランドで個人が挑戦しやすい環境としてあげられるのが、ファーマーズマーケットやフードカートの仕組みです。店舗を借りてチャレンジしなくても、ハードルが低く店を始められる。ハンドメイドのアクセサリーやファッション系や雑貨系をはじめる人も街中のイベントスペースで始められるプラットフォームが整っています。さらに、今では彼らには決済手段として現金だけじゃんく、ペイパルやスクエアでのクレジットカード決済を簡単に提供できます。(なぜかスクエアばかり見かけました。なんでだろう?)


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※農家直売で新鮮でオーガニックなものが手に入る分、値段は高い。その価値を認めるライフスタイル層がいるからこそ成立する
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※駐車場にキャンピングカーのようなカートを置いて店舗として営業。複数の店舗が出ていて、駐車場をみてみるとカートのレント看板が出ている
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※なぜか決済は、Squareばかり目につきました。Paypal hereじゃなんでダメなんだろう?提供してないのかなぁ

ナショナルチェーンももちろんあるのですが、地元のビール・地元のコーヒーを優先し、美味しい物や面白い物の情報がすぐに広まる距離感も大きな要因でしょう。
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※Public Domain Coffeeにて。とにかくみんなよくしゃべる。レジの人もバリスタも。僕みたいにしょっちゅう飲みに+Wifiめがけて行く人はすぐ覚えられるw

・コミュニケーションする文化。2ノックで会いたい人に会える規模感


小規模でやっているお店が多いからなのか、どこでもよく話しかけられました。コミュニケーションをする文化がすごく心地よかったです。名無しの消費者じゃなくて、一人の人間として対等にコミュニケーションをするような感覚です。

『Green Neighborhood』を書かれた吹田さんに、ポートランドに行く前に話を伺った時に出ていた「2ノックで会いたい人に会える距離感」というのがすごくよくわかりました。

小さな街だからこそ、面白い人同士が繋がっているというのと、コミュニケーションをよくするから情報が流通するという掛け合わせで、会いたい人、必要な人に情報が伝わりやすいのでしょう。

一方で、「小さい街なので刺激が足りない、もっと世界を見てまわりたい」という話も聞けました。

まとめ:都市圏としてバランスの取れた生態系が肝

ポートランド市として見た場合には、凄くクールで古い物と新しい物が混じっていて、なんでこの街はこの規模でこんなにカッコイイんだろうと思っていました。

しかし、ポートランド都市圏としてみた場合、橋を渡ってワシントン州のエリアなども含めて200万人都市圏になるようです。

実際、Thanksgivingのタイミングでお邪魔したお宅はワシントン州でした。ポートランドは消費税がない分、固定資産税などが高いので川を渡ってワシントン州にお家を建てて、仕事はオレゴン州ポートランド。もちろん買い物もポートランドという生活を聞いていると、都市圏で把握しないといけないなぁと実感しました。(追記:なんとさらにワシントン州は個人所得税の収税がないとのこと)

そして、この都市圏で見た場合にポートランド都市圏の生態系が絶妙によくできているのです。

このエントリーで書いてきたように大企業の雇用があり、それに付随して必要となるクリエイティブ系の雇用があり、そのため個人で価値を発揮すれば商売ができるという生態系がうまくできているところが絶妙だと感じました。

日本の各都市でもどう特色を出して、雇用や街作りをやっていくのかという課題が目の前にあります。その一つのヒントがやはりポートランドに行ったことでかなり実感値が持てたなぁというのが感想です。


<おまけ>

パウエルズブックスの地元チャートで上位に入っていたこの本。今読んでいますが面白いです。冒頭にポートランドのノードストロームで働いていた人が首になって、個人でカーペット屋さんを始めるストーリーが出てきます。やはり普通の小売り・製造業での雇用が減ってきて、その受け皿として小規模商売にチェレンジするニーズが出てきているようです。こちらでのスモールビジネス起業は、必要に迫られてという環境も大きいのかもしれません。日本もそのうち・・・。



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