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2014/05/07

年収は「住むところ」で決まる。競争力のある労働市場がなければ都市は発展しない



年収は「住むところ」で決まる。なかなか売れそうな邦題を付けた書籍です。もともとのタイトルはTHE NEW GEOGRAPHY OF JOBS。この本の第三章「給料は学歴より住所で決まる」をもとに付けた名前でしょう。

感覚的に都市競争ってそうなっているよね、ということを論理的にデータも含めて論証した今話題の本です。

いくつか抜粋して紹介していきます。


トーマス・フリードマンはグローバル化をテーマにした著書『フラット化する世界』で、携帯電話、電子メール、インターネットの普及によりコミュニケーションの障壁が低くなった結果、ある人が地理的にどこにいるかは大きな意味をもたなくなったと主張した。この考え方によれば、シリコンバレーのような土地は存在感を失っていくことになる。シリコンバレーが栄えているのは、ハイテク関連の仕事をする人たちが密集しているため、緊密に連携しやすいからだ。しかし、人と人が物理的に接触する必要がなくなれば、こういう土地の強みは失われてしまう。 

もっともらしい議論だが、データを見るかぎり、現実の世界ではこれと正反対のことが起きている。アメリカのイノベーション関連の雇用は増えており、その増加ペースはほかのあらゆる業種を大きく上回っている。


イノベーション産業の誘致がいかに重要かについても指摘している。
 イノベーション産業の成長があらゆる人にとって大きな意味をもつ理由はもう一つある。「雇用の増殖」とでも呼ぶべき魔法のような現象が生まれるのである。イノベーション関連の産業は、その分野の企業が寄り集まっている地域に高級の良質な雇用をもたらす。それが地域経済に及ぼす好影響は、目に見える直接的な効果にとどまらない。研究によると、ある都市に科学者が一人やって来ると、経済学で言うところの「乗数効果」の引き金が引かれて、その都市のサービス業の雇用が増え、賃金の水準も高まることがわかっている。 

 ハイテク産業は、雇用全体に占める割合はごく一部にすぎなくても、地元に新しい雇用を創出する力は飛び抜けて強い。都市全体の視点に立つと、ハイテク産業で雇用が一つ増えることには、一つの雇用が増える以上の意味がある。この産業は、地域経済のありようを大きく左右する力をもっているのである。

都市間競争について起きていることは、まさにこの二極化が起きている。


従来型産業を中心とする経済と異なり、知識経済ではどうしても繁栄が一部に集中しやすい。この新しい経済は先手必勝の性格が強く、都市がどのような未来を迎えるかは、それまでの歩みによって決まる面が大きい。反映している都市はますます繁栄していく。イノベーションに熱心な企業は、イノベーションに熱心な都市を拠点に選ぶ傾向があるからだ。イノベーション分野の良質な雇用を創出し、高度な技能をもった人材を引き寄せた都市は、そういう雇用と人材をさらに呼び込めるが、それができない都市はますます地盤沈下が進むことになる。
結局は、都市の魅力を増すためには、高付加価値な仕事を与える新しい産業・仕事が必要だという結論になっている。
 大ざっぱに言えば、経済的に苦しんでいる都市の経済を活性化させる方法は二つに一つだ。一つは、労働市場の需要再度のアプローチ。雇用主である企業を誘致し、その結果として高技能の働き手が移住してくることを期待する。具体的には、その都市を企業にとって魅力的な場所にするために、税制優遇策などの奨励処置を導入する。もう一つは、供給サイドのアプローチ。町の住み心地をよくすることで、高い技能をもった働き手を引きつけ、それを追って企業が進出してくることを期待する。端的に言えば、前者は企業を「買収」する政策、後者は働き手を「買収」する政策と位置づけられる。

さらに、この本で面白いのはリチャード・フロリダの主張(クリエイティブ人材が集まる寛容な場所が経済発展する)をぶった切っていることだ。その事例として、ベルリンをあげている。

この10年以上、ベルリンはドイツ国内で最も失業率が高く(全国平均の二倍に近い)、住民一人当たりの所得の伸びは国内で下から二番目にとどまってきた。ドイツでは抜きん出て刺激的で創造的な都市であり、ヨーロッパで屈指のクールな町であるにもかかわらず、ベルリンは堅実な経済的基盤を築けていないのだ。同性愛者であることを公表している進歩的な市長―この町のボヘミアンな雰囲気を象徴する存在だ―は、ベルリンを「貧しいけれどセクシー」な町と呼んだことがある。
ボヘミアンが集まってきても、高い給与をもらえる仕事がなければ、労働市場も都市も活性化しない。

以前、このBlogでポートランドでに行った時の考察でも同じような結論に達しました。世界的な大企業から小規模な個人までの絶妙な生態系でした。



そして、この都市圏で見た場合にポートランド都市圏の生態系が絶妙によくできているのです。
このエントリーで書いてきたように大企業の雇用があり、それに付随して必要となるクリエイティブ系の雇用があり、そのため個人で価値を発揮すれば商売ができるという生態系がうまくできているところが絶妙だと感じました。(【ポートランドで考えた】その2:小さな都市でも、地政学的強みを活かした生態系が絶妙!|空気読み一人シンクタンク


この本で示しているデータで一番おもしろかったのは、“上位都市の高卒者は下位都市の大卒者よりも年収が高い”“大卒者の割合が多い都市ほど、高卒者の給料が高い。というもの。このデータをベースにサンフランシスコで起きたグーグルバス問題のような階層対立ではなく共生がうまく進むといいのですが。。。


アメリカですでに起きてしまった都市の二極化は、日本でもすでに始まっているように感じます。だからこそ、この本を読んで今後の都市のあり方、移住のあり方を考えておくタイミングだと思います。


特に日本では、徳島の神山の事例のようにIT系の企業誘致をすることで新しいタレントを集めて、地域活性につながっている事例だってあるのだから。いまなら、東京一極集中以外の方法も模索できる時期だと思っています。


いろいろな議論ができるこの本、面白い!



年収は「住むところ」で決まる

エンリコ・モレッティ著

日本語版への序章 浮かぶ都市、沈む都市

1. なぜ「ものづくり」だけでは駄目なのか
 製造業の衰退は人々の生き方まで変えた
 リーバイスの工場がアメリカから消えた日
 高学歴の若者による「都市型製造業」の限界
 中国とウォールマートは貧困層の味方?
 アメリカの製造業の規模は中国と同じ
 結局、人間にしかできない仕事が残る
 先進国の製造業は復活しない
2. イノベーション産業の「乗数効果」
 イノベーション産業の規模と広がり
 エンジニアが増えればヨガのインストラクターも増える
 ハイテク関連の雇用には「五倍」の乗数効果がある
 新しい雇用、古い雇用、リサイクルされる雇用
 本当に優秀な人は、そこそこ優秀な人材の100倍優れている
 アウトソーシングが雇用を増やすこともある
3. 給料は学歴より住所で決まる
 シアトルとアルバカーキの「二都物語」
 イノベーション産業は一握りの都市に集中している
 上位都市の高卒者は下位都市の大卒者よりも年収が高い
 隣人の教育レベルがあなたの給与を決める
 「大分岐」と新しい格差地図
 健康と寿命の地域格差
 離婚と政治参加の地域格差
 非営利事業の地域格差
4. 「引き寄せ」のパワー
 ウォルマートがサンフランシスコを愛する理由
 魅力的な都市の条件1 厚みのある労働市場
 魅力的な都市の条件2 ビジネスのエコシステム
 魅力的な都市の条件3 知識の伝播
 頭脳流出が朗報である理由
 イノベーションの拠点は簡単に海外移転できない
 変化に適応するか、さもなくば死か
5. 移住と生活コスト
 学歴の低い層ほど地元にとどまる
 「移住クーポン」で失業を解決できるか
 格差と不動産価格の知られざる関係
 町のグレードが上がると困る人たち
6. 「貧困の罠」と地域再生の条件
 スター研究者の経済効果
 バイオテクノロジー産業とハリウッドの共通点
 シリコンバレーができたのは「偶然」だった
 文化やアートが充実していても貧乏な都市
 大学は成長の原動力になりうるか?
 「ビックプッシュ」の経済学
 20世紀のアメリカに「産業革命」をもたらした制作
 産業政策の可能性と落とし穴
 補助金による企業誘致の理論と実際
 地域活性化策の成功の条件
7. 新たなる「人的資本の世紀」
 科学研究が社会に及ぼす恩恵
 格差の核心は教育にある
 大学進学はきわめてハイリターンの投資
 世界の数学・科学教育レース
 イノベーションの担い手は移民?
 移民政策の転換か、自国民の教育か
 ローカル・グローバル・エコノミーの時代





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