故・黒川紀章 |
都市を計画したり、多くの人が使う建物を設計する建築家にはビジョナリーであることが求められる。
2007年に亡くなった建築家の黒川紀章さんは、間違いなくビジョナリーの一人だった。多くの人にとっては、都知事選出馬やバラエティ番組によって「変わった人」という印象だけが強くなってしまっているのが、大変残念である。
その中で、1989年に出版された「ノマドの時代 情報化社会のライフスタイル」は、まさしく先見の明があったことを証明する書籍でしょう。
ノマドという言葉が新しかったため、書名にも「新遊牧騎馬民族」とルビがふってある。この本で書かれているのは、ノマドというムーブメントを予測だけでなく、21世紀への3つのキーワードは「騎馬民族(ノマド)」「江戸」「情報化社会」と明言している。
以下の目次を眺めていただければ想像できるように、リチャード・フロリダなどが提唱している「クリエイティブ都市」としてのあり方について書かれている。
<目次>
序章 新騎馬民族とは
1章 騎馬民族のライフスタイル
2章 情報都市−江戸
3章 江戸を見る目
4章 江戸は“旅”の時代だった−巡礼の道
5章 江戸のホモ・モーベンスと講−伊勢参り
6章 「過密」こそ情報を生む−江戸の情報網
7章 西欧の「広場」と東洋の「道」
8章 環の思想
9章 ネットワークの時代
10章 江戸の時間コミュニティ
11章 情報のダブル・コード−受けつつ送る
12章 「高密都市」の情報マッサージ
13章 演劇空間都市
終章 情報化社会と情報都市
本文からちょっとピックアップするだけで、我々がネットで議論していることがこの古いテキストにそのまま現れてくる。
人材と情報が集中するオアシスでこそ強い都市になる
集積回路としての都市の舞台だから、移動空間を情報空間にする
アドホックなグループコミュニティが成立する、ノマドの時代の人間関係
高密都市だから持てる、フェイス・トゥ・フェイスの口コミュニケーション
ものから関係への情報化社会
均質なイコン社会から、多様な個の関係の社会に変わる
ダブルバインドが情報化社会を生きる「新騎馬民族」のキーワード
情報化社会はシンボリズムの時代
農耕・工業化社会の掟から人類の解放をめざす「新遊牧騎馬民族」
ハイブリッドで多種多様体な異質文化が共生するノマドの時代・・・
すでに絶版になっている書籍なので、中古で入手するしかないのが非常に残念だが、間違いなく「今こそ」読むべき本。夏休みにじっくり読んで、個人と都市、今後の社会予測などにじっくり向き合うのに最適なテキストだと思う。
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